―アメリカ大使館に強制移住反対署名を届ける―




 1999年10月17日 朝9時半頃、代々木公園レインボーパレード会場内に設営したティピーのなかでデニス(バンクス氏)の唄と太鼓に合わせてパイプにタバコを詰めました。これは多くのアメリカ先住民の重要な伝統儀式で、火皿に詰めた伝統的なタバコの葉(いくつかの薬草が混ぜあわせたもの)に祈りとともに精霊が宿り、それを輪になった人たちとともにふかすことでその煙が大地を浄めそして空に昇って大いなる存在にその祈りを届けるというものです。しかしいくつかの儀式の前、そして祈りを基にするウォークやランの前にはタバコをつめたままその行為が成就するまでパイプに宿った精霊の導きに一切をまかせきる、ということに従い僕たちもビッグマウンテンで授かったパイプを先導役にこの行進を歩くことに決めたのです。ティピーのなかこしらえた祭壇に飾った故島貫潤二上人(ビッグマウンテンに庵を建て6年余り一人で住みつき、住民と連帯、祈念を続けた日本山妙法寺の御出家)、日橋(政男)さん(20年以上アメリカ先住民運動、ビッグマウンテン支援を続けた元日本山の出家)の写 真に手を合わせ、そのあと会場ステージに行進者全員デニスとともに登りました。インディアンドラムを打ちながら皆で唄を歌い、デニスがそこに集まった人々に呼びかけました。

 「特に若い人たちに呼びかけたい。オーストラリア・アボリジニ、ニュージーランド・マオリ、北海道・アイヌ…、世界中のいかなる先住民に対して不正が行われていることに気がついたら、そのために何かを行う責任が私たちにはあるのだ。それを自覚してNO!と叫ぼう。自ずからの意思を示し、立ち上がり、何らかの行動を起こしてくれないか!
 私の住むアメリカ合衆国の先住民であるディネとホピの聖地ビッグマウンテンでは白人が来て以来ジェノサイド(大虚殺)の歴史が繰り返されてきた。そしていまなお強制移住という名のジェノサイドでそこに住む人たちは大地といのち、伝統生活その全てを奪われようとしている。そのため今月に入りヨーロッパの数ヶ国、アメリカの数都市で、そのことに反対する抗議アクションが行われた。そしていまからここにいる日本の人たちがたくさんの署名を携さえて聖なるパイプを先頭にアメリカ大使館まで歩いて行こうとしている。どうか少しでもここにいるみんなも出来ればこの行進に参加して大使館まで歩いて行って欲しい。」そしてペルティアソングを歌いながらステージを正面 から降り太鼓と共に私たちの行進を見送ってくれました。HOKA HEY!

 パイプの先導に続き、エミリーはじめ東京の人たちがナビゲーターをやってくれ、カオリコが断食しながら作った405ヶのタバコタイを巻いた、その先には日橋さんのサンダンスで使っていた鷲の羽根を結んだスタッフをダイジロウが持ち、島貫上人、日橋さんの写 真、手作りの旗を持った20代の若者、大鹿や望月町からかけつけてくれたボブさん、ゲンさんはじめ長老(?)たちが続きました。サワさんは首と背中に大きくメッセージの描かれたプラカードをたくさん作って参加してくれ、スマコさんはビラを片手に右へ左へ軽やかに道行く人に手渡しながら歩いてくれました。日橋ミユキさん、飯能のエコーとおさん、サリー夫妻、タイくんモンちゃんはじめ数人のお太鼓とお題目が力強く響きわたり、大声を張り上げて街頭デモをするという感じではなく1歩1歩大地に祈りながらIN BEAUTY,WE WALK というディネの人のお祈りのような行進となりました。


 表参道、青山墓地…、時折信号で離れた後ろの人たちを待ちながら、大鹿のアキさんのサポートカーが途中子供たちを乗せてくれたりしながら六本木にさしかかり、その辺りで鷲の羽のスタッフを日橋さんの息子、6才のユキウマが持ち最終アメリカ大使館まで向かいました。事前に最寄りの警察署にはアキオが行進の許可をとるべく何度か足を運んでくれていたのですが、僕個人として、許可を取りパトカーの先導で車道を歩くということにはしたくないとの思いがあり、僕自身初めてのウォークの経験が、島貫上人が行ったアメリカ大陸横断SPIRITUAL WALK 1992 AND BEYOND参加であったため、ただひたすら願い祈りながら1歩1歩大地を歩いてゆくということを原点としたいと思っていました。ですから国家に許しを請うものではなく、大いなる存在に許しを願うもの。パトカーに先導されるものではなく、パイプに導きを請うものであって欲しいと思い、なにが起きるかはわからないけれどもあえて許可を受けずにただ歩いてゆくというものとしました。たとえそのため太鼓やプラカードが示威行為として法律に違反するとわかっていたとしても。

 いよいよ大使館が近くなり、その建物が見えてきだすとそのゲートの前に10人位 の制服姿の警察官が待っていました。案の上というか、やはり警官からその行為は違反に当たるから即座に太鼓とプラカードを止めるようにとの通 達が出されました。こちらとしても目的地に到着しその目的(署名を届ける)を果 たすまでは何も起きて欲しくないと思いそれに従がいました。警官が言うには音を鳴らすこと、プラカード自体は無許可ゆえ、職務上注意警告はするけれども、あなたがたの目的と行為自体は邪魔したくないと。そこで少しの時間、全員が歩道に並び祈りの時を持つことにしました。

…ビッグマウンテンでいまなお抵抗を続ける年老いた長老たち。


 

 彼らの語る言葉を私たち地球上すべての人が聞く耳を持てるよう、そして連なるいのちの輪のなかで彼ら少数の真のホピ(平和)とディネ(人)の存在なくしては私たちはこれからの未来に生存してはいけないとして、2000年2月に出された最終強制移住期限(デッドライン)に、彼らが祖先からの大地から消えてなくなることのないよう、いつまでも彼らと彼らの子どもたち、その子供たちが美しい道の上で生きてゆくことが出来ますよう、皆でしばらくの間黙祷し祈りました。

 そのあと署名に添えて届けるメッセージ(原文英語)の内容を作成者のミリコさんより皆に伝えてもらいました。

 署名は集め始めて約40日で4000人以上集まりました。そして約100人の人が参加者としてそこに居ました。残念ながらアメリカ大使並びに代表する人は当日は居ませんでした(居ても原則として彼らは直接受け取らないということは事前の連絡で言われていましたが)。ゲートのところの職員の代表の人が授かり、後日大使の方に渡すということになっていましたのでその人に受け取ってもらい、後日電話にて確認させてもらうとのことを伝えると「約束しますが、念のためぜひそうして下さい」との返事をもらいました。

 そのときミユキさんがサンダンスの祈りの唄を歌いはじめ、皆で大使館の巨大な建物の向こうに見えるビッグマウンテンに続く空と大地を想い歌いました。

 それから現地解散となりました。


 行進中は先頭を歩いていたため一体どんな人が参加してくれているのか皆目わかりませんでしたが、遠く九州の方から飛行機でかけつけてくれた人や各地の祭りで出会った20代の若い人たち、以前アメリカを一緒に行進した友人や、全然知らない日橋さんのご縁の人やいろいろな人の縁で大勢の人が一緒に歩いてくれていました。

 もちろんレインボーパレード会場からデニスの呼びかけで参加してくれた10代の若者や、子供たちも参加していました。署名はコピーした分を手渡しました。歩き出す直前まで集めていたりコピーしきれずに直前に届いた分など正確には4000人以上の分は数え切れませんでしたが、僕自身勝手に4、444人(?4はインディアンの聖数)だったのではと思っています。デニスのアドバイスによりオリジナルは手許にとってあり、来年2月まで引き続き集めてゆきますので、最終合計してアメリカ大統領宛に送るつもりです。

 とにかく他の国や都市の抗議アクションに比べて参加人数、署名数最も多数のものとなりました。レインボーパレード会場まで戻り、デニスに報告し、夕方ステージ上からも皆に行進の報告を行いました。ティピーのなか、参加してくれた人たちとともにパイプに火を点けました。そして終わった後デニスが私たちに言いました。「私はアメリカ市民として明日大使館に電話を入れ、この問題についてあなた方と会うよう大使に要請する。」
 そして「アメリカ先住民としてあなたたちの行動に心から感謝する。この意味するところは他のネイティヴが他のクニのネイティヴのために行動したということだ。これの意味するところは大きい。本当に感謝する」と。その言葉は私たちには大変喜ばしいまた誇らしい言葉ではありましたが、その「ネイティヴ」の意味するところ、私たち日本人が本当に自然と共に在り、母なる大地の子どもとして在るのか、それとも他の人や生きもの、自然すべてを支配しようとするものとして在り続けていくのかどうか。それをまさしく問われているのだと思いました。


 ビッグマウンテンに起きていることは世界中すべての場所で起きていること、そのすべての大きな象徴であると思います。東海村の放射能漏れ事故もY2Kの問題も世界中の聖地で起きていることも、すべてこの自然、母なる大地にあるものをもうこれ以上奪わない生き方に変えていかなければもう本当に未来はないんだ、ということの最後の警告なのだと思います。私たちが真の地球の先住民という自覚、意識、生き方に立ち戻り、ともにすべての先住民と手をつなぎ敬い合い助け合いながら生きてゆく。そして、いまこそまだ、そこに帰れる最後のチャンスの時ではないでしょうか。そんな想いのなか、とり急ぎ行進の報告とさせていただきます。短い期間の呼びかけのなか、沢山の署名を届けてくれた人たち。そして当日参加してくれた多くの人にも本当に感謝します。引き続いて2000年2月まで一人でも多くの署名を集めていきますので皆様のサポート、ご協力を改めてお願いしたいと思います

 ありがとうございました。
 オール マイ リレーションズ 合掌四拝

山口HAL(記)



署名につけて渡した手紙(原文は英語)

アメリカ合衆国大統領殿

 ビッグマウンテンに残る長老たちのことを考えて下さるよう心からお願いします。彼らはこの大地の守り人です。聖なる大地の平和と調和を保つ手助けをする人びとです。それはちょうどあなたがたがお母さんを大切にするように、彼らは大地を傷つけないよう奪い取ることのないよう心掛けてきました。彼ら長老たちは地球のバランスと調和を保つ聖なる知恵を保つ人びとです。もしあなたがたが、かれらを伝統的な土地から強制的に移住させるならば、世界にとって生きた遺産である彼らの文化や宗教はこの地上から永遠に消えて行ってしまうでしょう。なぜなら祖先からの贈り物である大地との密接なつながりが失われてしまうからです。ディネ(ナバホ)のクニはそこで途絶えてしまうように思われます。

 私たちはそんなことが起こらないよう望んでいます。彼らがその土地に留まり、平和に暮らし、母なる大地と人びとのために儀式を行い祈り続けていけるよう、そして私たちと彼らがともに未来の世代に対し希望が持てるよう私たちは願います。私たちが彼ら先住民の教えから学んだこと、それは地球は私たちのお母さんだということです。私たちのすべてはそこから生まれその一部であり、互いにつながりあい関わりあっています。ビッグマウンテンで起こることは何であれ私たちすべてに影響を及ぼします。

 どうかこの人びとと大地を尊重して下さるようお願いします。私たち人類全ての意識が変わらなければこの20世紀の文明はもうこれ以上先へ進むことはできないと理解します。

母なる地球を守るため
未来の世代、子どもたちのために
Hozho go Nan Naazo. Hozho go Nan Naazo.
MAY WE ALL WALK IN BEAUTY.
私たちが調和のとれた美しい道をいつまでも歩いてゆけますように!
(作成者、村上美理子 協力 マキシンシア)


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