デイリーレポート



1999年12月31日(大晦日)晴れ

 暖かな太陽の光に包まれた朗らかな一日であった。ここが豪雪地帯の高山だなんて嘘のようである。地元の人もこんなの初めてだと驚くような天気であった。今年の日本の夏は日差しがアリゾナのように肌を刺す暑さだったが、12月もかつてなく暖かである。地球温暖化はいよいよ体感できるほどに進行してきたのだろうか。もはや手遅れ?! とはいうものの、真冬の山を歩くウォーカーにとっては、ありがたいことこの上ない。

 高山駅前にある自然食レストラン茗荷舎(みょうがや/tel.0577-32-0426)に、日のある内に大方のウォーク参加者は集合した。茗荷舎は食材・雑貨等も扱う店で、高山のオーガニック・ネットワークの拠点。オーナーの大原加代子さんは、今回のウォーク決定からわずか一ヶ月という時間のない中ではあったが、発願人の一人でもある地元ポンさん(山田塊也)とのご縁もあって、参加受け付け、宿泊所の手配、炊き出
しから地元広報まで、高山での受け入れを全面的に引き受けてくれた。本当に感謝します。岐阜新聞でかなり大きく、今回のウォークのことを記事にしてくれたこともあって、地元の関心は高いようだ。お巡りさんまでも「パレードとして道路使用許可を出してくれ」と言ってきた。それって山道をパトカー先導で、一車線封鎖して、東京までパレードしろってこと?

 日没後、 今晩の宿泊所、丹生川村細越の千光寺「地球人ネットワーク飛騨」まんだら学苑ログハウスに向かう。ログハウスやツリーハウスの前には大きな焚き火が焚かれ、 ウォーカーが持参したティピが張られ、気分も自ずと盛り上がってくる。

 ここ千光寺のある袈裟山は1600年前に両面スクナが開山し、1200年前に仏教寺院となった。スクナは飛騨先住民の英雄だが、大和朝廷によって退治された人で、日本書紀には顔が二つ、手と足が四本づつあるバケモノとして記述されている。ポンさん曰く、西から侵入してきた大陸からの渡来人達に押されて、列島中部山岳地帯には先住民達が逃げ込み”まつろわぬ 民”として立てこもっていた。しかし三世紀以降、朝廷からの支配と搾取が始まり、河内王朝の古墳造成工事も飛騨から多くの部民が徴収され、反感が高まり、スクナの乱が起こった。スクナ率いる山の民は、地形を知り尽くした戦術で朝廷軍を寄せ付けなかったが、その後武力に頼った抵抗運動から非暴力の道を志したスクナは、結果 として肉体は滅ぼされたものの、スピリットとして、飛騨の守り神として残ったのだと言う。

 袈裟山は以前は位山と呼ばれており、明日の出発地である位山はかつては日霊山と呼ばれていた三番目の位 山で、ちなみに最初の位山は乗鞍山であった。位山は朝廷側からはスクナゆかりのためか祟り山として恐れられてきたらしいが、地元では古くから太陽を祀る山として厚く信仰されている。

 今日の宿泊所探しは当初難航していたのだが、この袈裟山に呼ばれたことにスクナのご縁を強く感じる。海を隔てたアメリカに未だに生きる縄文の兄弟姉妹達の、聖地と伝統的な大地と共にある生き方を守るために、まずは自分の足で歩き始めた物質文明に”まつろわぬ ”者達。 IN THE SPIRIT OF SUKUNA. このスクナゆかりの山に寄せてもらえたことに、感謝。

 夕食後、雪もパラパラと降り始め、気温もグングン下がる。全員参加のミーティングをする。北海道、東京、長野、岐阜、大阪、神戸、三重、広島、福岡、熊本、ほか、全国から口コミやチラシを見て、高山まで40人ほどが集まってくれた。位 山の守り人 ポンさんも、酸素吸入器片手にいる。ビッグマウンテンからもわざわざこのウォークに参加するために、ディネ民族のハンサム・ガイで日本人の奥さんを持つティム・ソーが、自力で駆けつけてくれた。もちろんビッグマウンテンまで同行してくれる。とても心強い。ティム、フランス人のヤニ、ポンさんのバウル流チャンティング、ビッグマウンテンと日本人のご縁をつないでくれた故・日橋政男さんの未亡人みゆきさんの南無妙法蓮華経のお題目と、四人が、それぞれのスタイルでお祈りしてくれ、引き続きディネ民族の祈りの歌、内田ボブさんの鷲の歌が捧げられ、大晦日のセレモニーは終了。引き続き、明日から始まるウォークについての連絡事項を皆に伝達した。

 23時頃、2000年のカウントダウンを迎えに千光寺に向かう。僕はスクナにご挨拶し、 除夜の鐘を突き、表に焚かれた火を囲んで、静かにその瞬間を迎えた。電灯が消えなかったことで、最も心配された原発事故が近くでは起きなかったのだと思い、ほっと胸をなで下ろす。その後、本堂内での瞑想会?に参加。般 若心経などを読経する。般若心経のマントラの海にどっぷり浸かり、ウォークの仲間達と共に2000年の幕開けをまず過ごした。

 大地の兄弟姉妹達よ、あけましておめでとう。偉大なる神秘(グレート・ミステリー)に導かれながら、共に美しい道を歩んで行きましょう。

[文責:あきお]