2/2(水)
朝、ゆっくり目の朝食をとり、今日のセレモニーのための準備を整える。男達は髭を剃ったり、櫛で髪をといだり、新しいシャツに着替えたり、女達もアクセサリーを身につけ、布を腰に巻いてスカートにした。インディアンがセレモニーに参加する時は、皆、髪を結い、洗濯されたきれいな服を着るのはもちろんのこと、男性はリボンのついたセレモニーシャツを着、女性はフリンジのついたショールを腰に巻くのが、どこの部族にも共通
しているようである。大きなターコイズのブレスレットやネックレス、イヤリングなどを身につける者、頭に羽根飾りをする者、ビーズ飾りのついたモカシンを履く者、様々ではあるが、精一杯のドレスアップをするのが慣わしである。キャンプ生活といえども、風呂に入れなくても、我々の心構えをスピリットは見ている。僕たちも身だしなみを整え、精一杯のドレスアップをして集合した。
セレモニーを行う場所まではわずか6マイル(9.6km)ほどである。長老達も子供達も加わり、一緒にゆっくりと最後の行進をして向かった。先頭グループではディネの歌やサンダンス・ソングを中心に、代わる代わるリードをとって唄い続けた。もちろん日本山のお太鼓と南無妙法蓮華経も、後方でずっと唱えられ続けていた。
今日もありがたいことにパイプを持たせてもらった。横にはずっとデジタルビデオとデジカメを持って位
山から記録し続けてくれたシンゴが、今日こそはカメラを手放し、スタッフを捧げ持って歩いている。どうもご苦労さまでした。そして一緒に今日この日を共に歩いている兄弟姉妹達、サンフランシスコ・ピークスから、日本から一緒に歩いて来た兄弟姉妹達、素晴らしいウォークをどうもありがとう。一緒に歩けてとっても嬉しかった。そして位
山から1カ月間、ほぼ毎日一緒に歩き続けてきたハル、永井、ボブさん、ミツ、カトケン、本当にご苦労さまでした。一歩一歩を続ければ、こんな遠くにまでだってたどり着くんだね。
到着した場所は、一面にセージが茂り、東にビッグマウンテンを大きく望む丘の上であった。バヒは言う。「ディネの伝統ではセレモニーは普段使われていない清らかな自然の場所で行う。またここは、この辺りの3人のサインを拒否する長老達の住むところ、その3点の丁度真ん中に位
置する。そしてブラック・メサがまわりを囲み、その中の四方の聖山が交信するその中央にあるビッグマウンテンが東に見えて、西にはブラック・メサの四つの聖山の一つであるワイルドキャット・マウンテンが見える、その線上にある場所。自分の父親も他の長老にも聞いたところ、今日のセレモニーにふさわしい場所だと皆が言った」。その場所で、時計回りに約180人の大きなサークルが出来上がった。サークルの外にも大勢の人が見守っていた。バヒは「自分の役目はここまでパイプを届けることで、たった今終わった。ここからはおまえ達が望むようにセレモニーを行ってくれ」と言って下がっていった。一瞬ドキッとしたが、我々日本人が歩き始めたことが、今日のこのセレモニーの輪につながったことへのリスペクト(尊重)の意味が込められていたのだろう。またサンダンスぁ!
っている者が、ハル、永井、深雪、洋子、僕と5人もここにいるわけで、セイクレッド・マナーを学んできたのだから、その学びをここで生かせばいいんだ、という意味も込められていたのだろうか。アナメイ・キャンプでサンダンスのヘルプをしているディネの1人のリーダーと相談しながら、セレモニーの準備は地元エルダー達と共に進められていった。
サークルの東側は真っ直ぐビッグマウンテンに向けて広く開けられ、開口部両端にフラッグを掲げ持った。センターには聖なる火が灯され、火を挟んで西側のサークル内にビッグマウンテンに向かって2列で、全スタッフとパイプそして三重県亀山にある「月の庭」の昌に託された5000羽余りの千羽鶴が捧げ持たれて並んだ。列と聖なる火の間には丁度馬が通
った跡があり、そこにビッグマウンテンに向かって祭壇が設けられた。列の後ろ、サークルの西側には地元ビッグマウンテンのエルダー達家族が並んだ。
ここまで運んだ2本のパイプに、新たに、地元ビッグマウンテンのエルダーで、ビッグマウンテン・サンダンス・サバイバルキャンプのスポンサーで、最後のウォーリアー・ソサエティのメンバーであり、バヒのお父さんでもあるジョン爺のパイプも加わった。まずエルダー達からのスピーチがあり、ハルが日本からのウォークのこと、大勢の人の祈りと共にここまで歩いてきたこと、そしてホピとディネ
そして四つの色の人達が共に輪になることを祈りいまここにいる、と続いた。その後、サンダンスの時に使われる大きなドラムが連打され、地元ビッグマウンテン・サンダンスのシンガー達によるの歌を合図にパイプセレモニーはスタートした。センターの聖なる火では絶えずシーダー(ジュニパー)が焚かれ、白い煙が立ち登りサークルを清め続けている。セレモニアル・ソングが続く中、3本のパイプはサークルを一周して四方のスピリットにまず捧げられた。日本から運んだ日橋さんのパイプは西側、地元の強制移住の対象である長老達から。そして一本は東に、一本は南に、北側にはディネの伝統的なタバコであり、ディネにとってはパイプと同じ意味を持つコーン・ハスク・タバコ(コーンの葉で巻かれた伝統的なタバコ)が配され、時計回りにサークルをつくった兄弟姉妹達の口から口に順に回され、次々に煙が立ち昇り。ゆっくりと静かに、しかし力強く時間は流れる。場の空気が変わってゆき、サンダンスの時に感じるような、スピリット達からのパワフルなサポートを感じる。世界中から集まった兄弟姉妹達と共に、地元エルダー達と一つになったこの大きなサークルかぁ!
一人一人の祈りが、ビッグマウンテンへの大地への祈りが、煙と共に大空に広がっていった。スピリットは、グレートスピリット(偉大なる神秘)は、きっと煙の中から我々の祈りを読み取り、聞いてくれているに違いない。約2時間ほどのセレモニーだったであろうか。パイプを吸い終わってから、最後に日本から持参したスタッフや千羽鶴などを地元の長老達にプレゼントし、昨日のようにひとりづつ握手をして、サークルは閉じられた。多くのウォーカー達と共に、バヒも泣いていた。空には龍の形の雲がかかっていた。
特別なシャーマン(セレモニアル・リーダー)がいたわけでもなく、役割が最初から決められていたわけでもなく、地元の長老達が中心になって、セイクレッド・マナーをベースに、自然な流れの中で各自が役割を果
たし、みんなで進めたセレモニーだった。きっとどこの国でも昔から同じように、村祭りには特別
なシャーマンがいたわけでなく、長老達が中心になって祖先から伝えられてきた聖なるマナーに基づき、儀式は行われたのであろう。大地と共に生きていれば、
誰もが大地や精霊とキャッチボールできるシャーマニックな力を持ち合わせていたに違いない。大地や精霊を敬い、祀り、祈ることは、一人一人が日常的に行っていたことであろう。ビッグマウンテンのエルダー達は、今でもそういう昔ながらの生活を続けている。しかし大地と切り放された生活をしてしまうと、神事を特別
な事として専門職に任せ、自分が直接つながることを忘れてしまい、お布施を渡して他人にお願いするだけになってしまうのだと思った。
キャンプへと戻ると、ロバータの家では「ホピ平和宣言」のコピーが、白人サポーターから配られていた。食事の用意をしながらみんなで和やかに談笑をしたり、アドレス交換したりしていると、昨日以上に次々とお客さんがやって来て、様々な情報をもたらしてくれた。中でもデッドライン・デーの昨日、「我々を隔てる柵はいらない」と、ホピとナバホの土地の境界線に張られた鉄条網をカットするセレモニーが、ディネを代表してアナメイのサンダンス・スポンサーのジョン・ベナーリと、ホピ(の一部伝統派)を代表してホテビラ村の伝統派
故・ジェームス・クーツィの息子 デニス・クーツィの手で行われたことを報道する今朝の地元新聞を見せてもらい、みんな声を挙げて大喜びした。なぜなら、今日のセレモニーでは当初思い描いていたホピとディネの長老が一つの輪をつくり、共にピースパイプを吸うというシーンが見られず、ホピの伝統派が不在だった印象を受けたからだった。ホピ側の無関心にガッカリしていただけに、このニュースは本当に嬉しかった。(後日判ったのだが、この日のセレモニーにはデニス・クーツィーを始め、少なくとも2名のホピが参加してくれていたらしい)
。
夕方、このビッグマウンテンに86年から92まで一人住んでいた日本山妙法寺の故・島貫潤二上人の元道場に、有志だけでお参りをしに向かった。HPL内で、近くにはかつてのビッグマウンテン・サンダンス・サバイバルキャンプがあり(一時は日本人を始め世界中からサポーターが集まり住んでいたが、96年にBIA警察、レンジャーが動員されサンダンスが継続困難になり、サンダンスは97年より現在のNPL(ナバホ分割地)内の場所に移動した。サバイバルから分かれて行われているアナメイ・キャンプは、現在もHPL内にあり、インディアンのみのサンダンスを行っており、多くのレインボー・ピープルがサポートを行っているが、ここも状況は困難になってきている。)、すぐ裏にはかつてこの地に住んでいたアナサジの遺跡があり、毎朝その遺跡に行ってお勤めしておられたという。車も持たず、最初は地元の人にバカにされながらも、何クソ!と一人で建てたというベッドと机と祭壇だけの、直径3mにも満たないとても小さなゆがんだホーガンはもうなく、地面
にその跡だけが残っていた。祭壇があった場所からは、セージが?,! 生えていた。一人一人お線香を捧げ、お祈りをした。相当変わったお坊さんだったらしい。今でも地元の人からジュンジという名前はよく聞く。6年余りもこの地に住み、この大地とディネをこよなく愛し、自らを
"ジャバホ"(ジャパニーズ+ナバホ)と呼んだ彼のような人がいたからこそ、我々は難なく地元の人たちに受け入れられているのだろう。
夜、キャンプの焚き火を囲んで、コデールがしみじみと喜びを語ってくれた。「日本からウォークが来たことで、長い間離れて争ってきた人々が、一つの輪をつくり、共にパイプを吸うことが出来た。本当に嬉しい。今日の素晴らしいセレモニーをもたらしてくれたことに、すごく感謝している。」と。ディネの社会は羊飼いをベースにしているため、一家族が生活するためには見渡す限りの土地が必要で、隣の家とは随分と離れて生活せざるを得ない。それゆえに、数家族がバンドを組んで共に狩猟しながら暮らしていた平原インディアンのラコタなどとは違い、バラバラになりやすく、ジェラシーが原因のいざこざが多いと聞く。強制移住法が出来てからというもの、その対応を巡って地元同士のみならず、家族内でもバラバラになってしまったという。このウォークがきっかけとなり、離れ離れになっていたディネの人達の心が、また一つになったというこの声は、何より嬉しかった。今回のウォークは終わったけれど、これで終わるんじゃなくて、ここからがもう一度の始まりだと思った。かつてのジュンジさん達の時代から一巡りして、今回は新しい世代の若い日本人が大勢やって来たし、彼らの大半は、このまま他の国のサポーター達と一緒にビッグマウンテンに残ると言っている。それに6月の末に、また僕らはサンダンスで来ることになる。ビッグマウンテンを祈る行動は続いていく。
今回のウォークでは、レッドウッドの森の木の上に2年間住み続けていた著名な自然保護アクティビスト
ジュリアさんをはじめ、スウェーデンの緑の党の女性議員、世界中の自然保護運動や平和運動の活動家、毎年2万人もの人が山奥にウォーク・インしてお金を一切介さないピース・ギャザリング「レインボー・ギャザリング」を行っているレインボー・ピープル達、食料援助専門のNGO「フード・ノット・ボム」の人達など、数多くの世界中の現代物質文明にまつろわぬ
行動する人々と出会い、絆を深めた。この絆はこれからの2000年代、地球規模の自然破壊をくい止め再生していく上で、人が自然と調和した美しい道を模索していく上で、かけがえのない絆へと育ってゆくに違いない。
ロバータは「今までずっと生きて来たことがウォークで、ここから歩いて行くこともウォークなんだよ」と言っていたが、その通
りだと思う。しかし日本でも、人生そのものがウォークだと感じながら生きて行くとなると、今の社会や都市での生活は、窮屈で伸びのびと動けない。何よりお金に生活を縛られる。全てをライフラインに頼った生活、高カロリーの消費、エントロピーの増大はゴミとなり、人も増え、スピードも速く、何をやるにも分母が大きく、保守のために管理・操作・排除を強め、人をゆがめるシステム。肥大化し続ける都市のエネルギーを小さくしない限り、都市は変わらず、人は変わらず、地球は再生への道を歩めないだろう。システムのベースをエコロジー(生態系)に置かない限り、どんなに新たなシステムに変わっても同じ繰り返しだろう。様々なオルタナティブな適正技術も出て来ているが、ここ30年が正念場だと思う。
人が大地と調和して美しく生きている、このビッグマウンテンという聖地があるからこそ、我々はウォークを通
じて素晴らしい体験が出来た。ここでの大地と人間を結ぶホジョナ(デイネ語で美、神聖、平和、調和、バランス、他、あらゆる美しい言葉が内包されている、ディネの伝統的な生き方を示す、お祈りに欠かせない言葉)があってこそ、何が大切で、何を守らなくてはならないのかがハッキリと分かる。自然を国立公園にして、人間社会から隔絶して守るというのは不完全な状態であって、本来は人がそこを聖地としてお世話をしながら、その大地の循環の一部となって生きてこそ、ホジョナだと思う。そんなホジョナな聖地での生活は、今や世界中から消え去ろうとしている。オーストラリアからも、アフリカからも、アジアからも、今まさに世界中から消え行こうとしている。アメリカが現代文明の象徴であるならば、アメリカが犯し続けるビッグマウンテンは、聖地とそこを聖地としてお世話し生き続ける人達(先住民)の象徴である。ビッグマウンテンが守られなければ、世界中の聖地とそこに生きるすべてのいのちは守られないだろう。
これから、ウォークを通じて気づいたことを、感じ合い祈った想いを、自分の国のコミュニティに帰って分かち合い、この輪を広げるという仕事が待っている。我々一人一人の、つながる全ての存在を想いやってきたこの小さな愛が、大きく育って、この輪が地球をぐるっと包み込む
"虹の輪" へとつながってゆくことを夢見たい。そんな希望を感じさせてくれた、このウォークでの素晴らしい体験と出会いに、感謝してもしきれないほど感謝
一緒に歩いた兄弟姉妹達、サポートをして下さった大勢の人達、署名をして下さった14,000名もの人達、世界中の同じ想いの兄弟姉妹達、ビッグマウンテンの人達、そしてつながる全てに、本当にどうもありがとうございました。
[文責:あきお]
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