1/31(月) 曇り時々雪
昨晩雪が降ったが、幸いにも降り積もらなかった。いつものように皆まだ暗い内に起きて朝食をとり、日の出間もなく出発する。モーニング・サークルは93人。ハイウェイ160を1.5マイル(2.4km)ほど歩いて間もなく、左脇に二つの対になっている大きくそびえ立った岩 エレファント・フィートが見えてきた。ここで二つの岩を挟む形で真ん中に大きなサークルをつくった。ディネやホピの人達にとって、昔からの大切な聖地だったらしい。キャメロンのメディスンマンが、途中でぜひお祈りしていってくれと言っていた男性と女性の岩で、ブラック・メサからスピリットがやってくる場所である。今ではハイウエイが真横を通
り、岩肌に落書きもされ、祈る人もほとんどいなくなったという。聖地を忘れてしまうことは悲しい。大地に祈りを捧げてきた聖地を失うことから、大地との絆は断たれてしまうと思う。
全員がひとつまみのタバコに祈りを込めて、両方の岩にオファーし(捧げ)て祈った。気がつけば誰からともなく、辺り一面
に散らばるガラス瓶の破片やゴミを拾い集めていた。
ちょっと歩いて、ルート41を右に折れる。いよいよランを使うことになった。希望者を募るとランナーは37人。4人で2本のパイプと2本のスタッフを持ち、ハーフマイル(800m)づつリレーでつないで行くことになる。ランではスタッフやパイプを走りながら運ぶのであって、バトンの様には決して扱わない。競争するランニングではない。4人が一つの心、一つの祈りを持って、一列になって走った。舗装されていない道で、走っていて気持ち良い。さほど距離は長くないので、皆何度もランする。伴走する者も大勢いる。息が上がるが、みんなの気持ちもハイになり、すごく盛り上がる。一体感も強く感じられる。結構速いスピードで、あっという間に約8マイル(12.8km)駆け抜けた。
ここからいよいよ強制移住区域(HPL/ホピ部族政府分割地)内に入って行く。サポートカーは一足先に宿泊地へと向かった。鉄条網を乗り越えくぐり、入る。ここから約3時間、道なき道をどこに向かうかを察知されないよう歩いて行く…。はずであったが、日本山のお太鼓とAIMソングは鳴り止むはずがない。バヒも少し苦い顔をしていた。忍者ウォークのはずが、実に堂々と歩いて行ったのであった。
HPL内に入ったとたんに、今までのウォークとは全く違った張り詰めた空気が全員を包み込む。バヒは極度に緊張しており、そのバイブレーションは全員に伝わってくる。今までなかった一体感と共に、緊張感に支配される。エレファント・フィートは、ブラック・メサへのゲートなのかも知れないと思った。かつてあの二つの巨岩の間を通
って、人々は聖地ブラック・メサへと入っていったのかも知れない。やがて巨大な台地の麓にたどり着く。この上がブラック・メサである。バヒは「ブラック・メサに着いたら、祝福の雪が降るだろう」と言った。さほど険しくもない岩肌をよじ登っている最中、なぜか騎兵隊に追いかけられているような錯覚に陥る。後で分かったことだが、不思議なことにみんな同じ様な錯覚を覚えたという。実際にこの辺りでその昔、インディアン達が騎兵隊に追われたことがあったとしてもおかしくはないだろう。メサの上に着いてからランチをとる。上からの眺めは、想像以上に壮大で美しかった。バヒが言ったとおり、パラパラと雪がちらついた。
まばらに一面に拡がるジュニパーとピニオン・ツリー、そしてセージなどのブッシュの間を抜けて、道なき道を再び歩く。生えているものは、みな強力なメディスンとなる薬草ばかり。いい香りが漂う。赤い砂の大地は、歩いていても全然疲れない。すごく気持ちいい。爽快だ。しかし、女神が宿るこの広大な聖なる台形の大地の下から、ピーボディ石炭採掘会社が肝臓たる石炭を露天掘りし、しかも貴重な地下水を汲み上げて遠方のパワープラントまで水圧でパイプラインを通
して運んでいるのだと思うと、胸が痛くなってくる。
やがて前方に先発隊の姿を確認する。彼らの出迎えを受け、鉄条網のフェンスを再び乗り越え、道に出る。ようやく今晩キャンプを張る、ブラック・メサの上に住みずっとストラグル(闘争)し続けているエルダー
リーナ・バベット・レインさん家族の住むエリアに到着したのだ。ウォーカーの喜びの気持ちが、歌となって溢れ出てくる。みんなで日本から歌い続けてきたディネの歌「マザーアース・ソング」が、大きな空に響きわたる。「
Ah-Ho! We made it ! 」。ハルが声高らかに叫ぶ。そう、僕達は誰にも邪魔されることなく、無事にパイプをここビッグマウンテンの心臓部(肝臓部?)ブラック・メサまで運び通
したんだ。ここは強制移住区域内とはいうものの、多くの白人サポーター達がエルダー家族と一緒に生活をし、共にストラグルし続けている場所である。安堵感と達成感が胸一杯にひろがった。気持ちが晴れ渡るのと同じように、空にも晴れ間が見え、夕日の強い日差しが辺り一面
に差し込み出した。まるで太陽から祝福されているようであった。
クロージング・サークルは111人。とても大きなサークルで今日のウォークを終える。歩行距離は約16.5マイル(26.4km)。今日からはいよいよキャンプ・インなため、まずはテントを家のまわりの気に入った場所に張り、日没までの間、思い思いの事をして過ごした。誰が指示したわけでもなく、日本人グループ男性は若手を中心に代わる代わる薪割りをしていた。わずかではあるものの、冬を越すためのとてもいいサポートになったことだろう。日没が近づくと、羊達が帰ってきた。ここビッグマウンテンにしかいない珍しい羊もいるという。伝統的なブランケットは、白、茶、黒、ほか、羊達のナチュラルな毛を染めることなく紡いで織られとており、そのために様々な種類の羊が飼われていたという。ここでの最後の伝統的な生活が失われると、きっとそんな羊達も失われてしまうに違いないだろう。夕食に羊が出る。今朝羊を一頭屠殺したらしい。与えられたいのちに感謝する。日本山のお太鼓が、沈み行く太陽と共に鳴り響く。日が沈んでもなお地平線は鮮やかに染まっている。岡野くんとボブさんのセッションが、静かに美しくあたりに響きわたっていた。そのまわりにはディネの人、白人サポーター、日本人が共にシャンティ(静かで平和で愛に満ちている感じ)にたたずんでいた。太陽が沈むと瞬く間に寒くなっていった。風が特に冷たかった。
この台地の上からの景色は、遠く地平線までぐるりと見渡し見おろす景色の感じは、毎年夏に踊りに来ているビッグマウンテンのサンダンス会場からの眺めを思い出させた。そのうちテントが徐々に増えてきて、ますますサンダンス・キャンプに入っているような不思議な錯覚に陥った。ここからは、東の丘の向こう側にブラック・メサの石炭露天掘り現場が、南東の地平線にツインピークス(二つの頂上)を持つビッグマウンテンが、南西にはグランドキャニオンがのぞめる。素晴らしいロケーションだ。疲れがスッ飛びエネルギーがどんどんチャージされていくこの感じ。どこまでも抜けるこの軽い感じ。自然を力をダイレクトに感じる。まさにこのエリア全体が聖地なんだと実感する。
この聖地が、いつまでも聖地であり続けることができますように。
[文責:あきお]
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