1月30日(日) 快晴
モーニングサークルは66人。昨日に引き続きハイウェイ160を東に歩く。まず最初に休憩したのが、ウラニウム精製工場跡のゲート前。巨大な露天掘り跡は、すっぽりと塞がれていた。
午後、石川さん親子とアキーニがようやく合流する。動けるようになって良かった。その後は、中島さんにお世話になっていたらしい。ホピとナバホ両方の部族政府と関係を持つ人だが、彼からホピ部族政府から送られたFAXを預かり届けに来たのだという。どうやらホピ政府もナバホ政府も、このウォークのことを良く思っていないようだ。母なる大地の上に線を引き、二つの部族政府によって切り分け、内臓(地下資源)をえぐり出すために鉱山会社に貸して、わずかなお金を得て、伝統的な生き方を捨てて最下層のアメリカ市民になる。そのために少しでも大きく土地が欲しい。両政府の利権争いは微妙なバランスの上に成り立っている。ゆえに我々の行進は両政府にとって邪魔なのだろう。
昔のように白人がインディアンから搾取するという構造は、表面には見えてこない。インディアン同士を争わせ、その裏で企業が利益を得る、そのための便宜をアメリカ政府が図るという構造である。アメリカは契約社会であり、企業にとっては利用したい土地の所有者を限定し、契約を結ぶ必要がある。そのために都合のいい契約相手をつくる必要がある。部族政府が生まれたのも、ホピ政府とナバホ政府が土地争いしていることも、このような背景による。このことは、石炭採掘を行っているピーボディ社の弁護士とホピ部族政府の弁護士が同一人物であったことでも明白である。
アキーニはそのままウォークに参加するが、石川さん親子は「このウォークはホピとナバホを分断するもので、調和を生むものではないから、即刻引き返すべきだ。」というメッセージを伝えて戻って行った。置かれている立場によって、このウォークへの見方は変わる。我々は政府の決めた法に則って動いているのではなく、"All
my relations"(全てのつながりの中で生きていく)という"自然界の法"に則って動いている。大地とつながりながら大地の守り人として生きているエルダー達が、そのままの生活を続けていけるよう祈り、励ましにビッグマウンテンまで向かっているだけである。複雑な政治的背景は聞いてはいるものの、そこにあえて耳を貸したり荷担しようとは一切思っていない。グレートスピリットの導きを信じ、ただただ真っすぐ歩いているだけだ。何か問題が起きているのであれば、それは我々の歩みによって"自然界の法"にそぐわないシステムの矛盾が露になっているだけのことだと思う。そこに気づきがなければ、同じ過ちを人間は繰り返して行くだけである。ウォークのフォーカスは定まっており、何が起きてもブレることはない。今回のことで歩く決意はいっそう強くなった。
ウォークに合流する人が、日に日に多くなってくる。家族連れでの参加も多い。とてもいい経験になるからと、子供達を一緒に歩かせているようだ。いつの間にか80人近い人が歩いている。夕方、天空オーケストラの岡野くん、のぶちゃん、映画監督の大重監督と、レインボーフラッグを染めてくれたともちゃんが合流する。事前に来るつもりだとは聞いていたものの、突然のことにすごく驚いた。去年「虹の祭」を一緒に立ち上げ、共に苦労し共に祈った彼らの参加は、とっても心強いし何より嬉しかった。来る時の飛行機の中から、アリゾナ上空にドーナッツのように
"円の虹" がかかっていたのを見たと岡野くんから聞く。この空の上では、そんなことになっていたようだ。岡野くんがレインボーフラッグを出してきて、残りを一緒に持って歩いた。大重さんがカメラを持って走り回っている。
今日の宿泊場所のレッドレイク・チャプターハウスに着くと、エルダー達をはじめ80人以上の地元の人達が待ってくれていた。こちらでも地元を挙げての大歓迎であった。多くのスピーチがあった。泣きながら歓迎のスピーチをしてくれる年輩の女性から「歩くことがどんなに大変か、足が痛くなってつらいことがよく分かった。家に帰ってみんなにあげる食事を探してみたいと思っている。」などというありがたい言葉もいただいた。このところハルのスピーチが抜群に上手くなってきている。毎日のモーニングサークルでのスピーチが、みんなの気を引き締めてくれているが、今晩のスピーチはまた抜群だった(別
途記載を参照)。岡野くんやボブさんや白人サポーターのライブ、地元の少女のフープダンス(幾つもの大きな輪を巧みに使い、鳥など様々な動物にもなって踊るダンス)やエルダー達の歌、日本人サンダンサーと昨年秋に来日したビッグマウンテンのサンダンサー
マーシャルによるディネのサンダンス・ソングなど、宴は大いに盛り上がり、最後の方ではみんなが手をつないで大きな輪をつくって、歌い踊った。様々な民族の言葉が飛び交い、笑い声は夜遅くまで続いた。
このような歓迎会とは裏腹に、バヒや主要メンバー達は、実は非常にナーバスになっていた。今日はウォーク中、ナバホ警察のパトカーが幾度も見回りに来たし、ヘリコプターまで動員されていた。バヒは常に警察無線を傍受し、彼らの動きを細かくチェックしていた。第二次大戦中、アメリカ軍は暗号としてディネ語を採用していたことにあやかって、バヒは我々の通
信は日本語でやりとりしようと本気で言っていた。そして明日のピーボディ社のブラック・メサ採掘現場への道路が封鎖され、ウォーク隊が身動きとれなくなり、パイプがビッグマウンテンまで行けないことをとても恐れた。バヒはビッグマウンテンのエルダー達にも相談し、悩みに悩んだ末、唯一の結論に達した。ルートを変更し、忍者のように隠密行動でビッグマウンテンのエルダー達の所まで向かうということに。そんな不安一杯だった気持ちをほぐしてくれたのが、レッドレイク・チャプターハウスでの熱い歓迎だった。
宴も終わり、宿泊するウォーカーだけになってから、深夜のミーティングが持たれた。「申し訳ないが質問はしないでほしい。随分と考えた結果
、我々に残された方法はこれ以外にあり得ないんだ。」というバヒの言葉に始まり、急遽、寝袋だけを残して荷物をパッキングし、今夜中に明日のキャンプ地まで車で荷物を運ぶことになった。明日の行き先やルートは一切告げられなかった。知っているのはバヒと数人だけである。ピーンと張りつめた空気が部屋中を覆う。しかし誰からも文句や不安を煽るような言動はない。逆に非常事態であることを皆認識し、それを一丸となって乗り越えていこうという静かな決意すら感じた。そういえばこのウォークに参加している人には、筋金入りのアクティビストが多い。ペルーから来ているピオさんは非暴力による運動の指導者で、94年のセイクレッド・ランを始め、数々の平和運動に携わってきたエルダーである。クエーカー教徒のペグさんは67歳になるという。クエーカー教徒はアクティブなことでも有名である。他にも木の上に9カ月も住み続けレッドウッドの森を体を張って守ってきた人など、みんな強い祈りを持ってここまでやって来ている。我々日本人も、皆逮捕すら覚悟の上である。誰かが「星条旗を逆さまにして掲げて持っていこう」と言い出した。すかさず別
の誰かが「これは政治的な行進じゃないから、そういうことは止めよう」と言い、皆が瞬時に納得するシーンがあった。全員のチューニングも良好、素晴らしいメンバーだ。
我々ウォーカーにとって今、何が最優先されるべきか。それはビッグマウンテンに残るエルダー達の元に、日本から運んでいたパイプを、数多くの共に歩んできた人の祈りを象徴するスタッフと共に届けることである。そのために車内スペースを広くし極力身軽になるため、荷物を先に運ぶのだ。そして夜明けと共に出発し、ランを使って速やかに、忍者のように密やかに、ビッグマウンテンの強制移住区域内へと奥深く入って行く計画ある。外に一息つきに出ると、雪がパラパラと降っていた。明日はきっとハードなウォークになることだろう。
[文責:あきお]
[レッドレイク・チャプターハウスでのハルのスピーチ]
「私達はこの2000年1月1日の初日の出を、位山という日本の聖なる山で拝み、この行進はスタートしました。そして日本の美しい山、川、大地を一歩一歩祈りながら、東京まで約300マイル歩きました。そもそもこの行進は、ビッグマウンテンに住むおじいちゃん、おばあちゃんたち、長老達に遠く日本から、そしてたぶん他の国でも同じだと思いますが、あなた達の声を僕達が聞いて、そしてあなたたちから多くのことを学んでいるという事を伝えるために日本から歩き出そうと、そういうことで始まりました。
このビッグマウンテン、そして全ての先住民の土地で起こっていることは、本当に今世界中で起こっていることの象徴だと思います。私達日本でも同じように聖なる山、川、大地、海が破壊され、そしてそのために人々が強制移住させられています。ビッグマウンテンに残る本当の大地の守り人である伝統的なディネの人、そして伝統的なホピの人に、私達はこれからの未来、多くのことを学ばねばと思っています。本当にこれからの未来は人々が大地と共に全てのいのちと歩まねば、あり続けなければ、私達の未来はビッグマウンテンはおろか、世界中の至るところで失われ続けると思います。私にも四歳になる娘がいますが、その子たちの未来が本当にもう一度、母なる大地と生きる道を取り戻さなければ、その子たち、そしてその子供達が、生きられない時が来ると思います。
過去の2000年、破壊と支配の2000年はもう終わったと思います。これからの新しい未来に向けて、これからは調和と再生の時代をつくっていかなければならないと強く思っています。ですからこの行進は、決して政治的に何かを抗議するようなものではなく、私達のこの一歩一歩が、母なる大地とそこに住むいのちに対しての祈りになるように、そういう想いでここまで歩んできました。ビッグマウンテンを祈ることは、世界を祈ることだと思います。ビッグマウンテンのおばあちゃん達を祈ることは、世界の全ての長老達、そして未来の子供達を祈ることにつながると思います。ですからビッグマウンテンがいつまでもあり続けられるよう、私達のこの一歩一歩が祈りとなるよう、明日からもまた歩いていきたいと思います。本当にどうもありがとうございました。」
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